ぐらんぴ日記

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尾張屋の謎




永井荷風に関する記述です。興味のない人はパスしてください。
(ただし3回パスするとマイミク切りに遭います)←ウソ

日蝕の日は、浅草で人と逢った。雷門で待ち合わせ、そそくさと食事に向かったのは蕎麦の老舗、『尾張屋本店』
ぼくを知ってる人はなるほどと思うでしょ。そう、永井荷風晩年の行きつけの店のひとつ。

http://www.asakusa-umai.ne.jp/umai/owariya.html

最晩年(70代後半)の荷風は、ひたすら浅草出遊で時を過ごした。
『断腸亭日乗』の記述は、「晴(または陰、雨)。正午浅草」という簡素な記述がえんえんと続く。何をしていたかというと、公園のベンチでうたた寝したり、映画館に入って映画を見たりしていた。たとえば、昭和31年10月29日はこういうふうだ。

「雨。午後浅草。六區ロキシーに米映画「太陽に向かって走れ」を見る。雨夜に入るも歇(や)まず」

荷風は決して日本映画を見なかった。この「太陽に向かって走れ」はぼくが稚内の中学生だった頃見た映画で、主演はリチャード・ウィドマーク。評価としては、たいしたものではなかった。荷風が興味をもてる映画とは思えないが、ただ時間をつぶすために映画館に入って何も考えず痴呆然としてスクリーンを眺めているか転寝していたかだろう。まあ同時期、同じ映画を見ていたということで、かろうじてぼくと荷風は重なる部分はあったということだ。

で、この最晩年の荷風を追っかけていたのが若きアマチュア写真家、井沢昭彦氏。
荷風ファンの彼は、今でいうところのストーカーのごとく、毎日、地下鉄の駅頭に待ち構え、やってくる荷風につきまといパチリパチリと写真を撮っていた。日本で最初のパパラッチのようなものだ。
荷風は最初のうちはつきまとわれ撮影されるのを怒っていたが、やがて諦めたようで、「撮るなら好きに撮れ」というような気分になったらしい。
その井沢氏によって、最晩年、浅草で荷風がどのように過ごしていたかが分かるわけだ。荷風ファンは彼に感謝しなければならない。


ところで、よく知られていることだが、荷風は毎日、昼どきに洋食屋『アリゾナ』を訪ね、ビーフシチューを食べるのが日課だった。その記述は日乗に執拗に出てくる。たとえば昭和31年7月22日。

「日曜日。晴。午後浅草。食事アリゾナ。夜初更より雨。軽雷殷々たり」

あまりにも回数が多いので索引でも初出と最後の日だけを記すだけである。

尾張屋も、井沢カメラマンや女将店員の話で、ほとんど毎日のようにやってきては「かしわ南蛮そば」大盛りを食している。井沢青年は大胆不敵にも、尾張屋でそばを食べている荷風を真っ正面からカメラでとらえ、シャッターを切っており、その時の写真は(上右)いまも尾張屋に飾られている。
だから、荷風が尾張屋に繁く通ったことが今に伝わっているわけだが……。

なぜか、日記には尾張屋の記述がない。

「アリゾナ」はいやというほど出てくるのに、「尾張屋」に行ったということはただの一回も書かれていないのである。
これが不思議なのである。もし井沢昭彦というパパラッチ元祖がいなければ、荷風が尾張屋をひいきにしていたことは伝わらず、尾張屋も今ほど人気がなかったのではないだろうか。荷風ファンなら必ず浅草に来たら「アリゾナ」に寄り次に「尾張屋」に寄るだろうから。

尾張屋の名物は「天婦羅そば」あるいは「天丼」であろう。大きな海老の天ぷらが二匹、どでーんとのっかってる。浅草名物としてテレビでもよく紹介されているから、知らない人がないぐらいである。
ただしぼくは、やはり荷風散人に敬意を評して、ここに来ると「かしわ南蛮そば」を頼む。まあふつう盛りで。
二階にあげられちゃうと見られないのだけど、一階の壁にはかつてここで(古い店のころ)かしわ南蛮そばをすすっている荷風の写真が飾られて、それを見ながら同じそばを食すのである。メガネが鼻までずり落ち、不機嫌なような諦めたような視線でカメラを見つめている荷風先生を見て「どうして、ここのことを書かなかったんですか」と問うのだが、もちろん答が得られることはない。
幾度も推理してみるのだが、どうしてなのか今もってサッパリ分からない。

ちなみに「荷風の浅草出遊最後の日」は、昭和34年3月1日ということになっていた。この日、アリゾナで食事の後、荷風は店の前でけつまずき倒れ、店の人に助け起こされている。

「三月一日。日曜日。雨。正午浅草。病魔歩行殆困難となる。驚いて自動車を雇ひ乗りて家にかへる」

しかしこの定説を覆す説、いわゆる「尾張屋最後説」がたてられた。たてたのは今は亡き畏友、荷風評論家の松本哉君である。

詳しく説明すると一冊の本になるが、そのあらましを簡単に記してあるのが、「余丁町散人」のブログであるので、興味がある人は参照していただきたい。

http://homepage.mac.com/naoyuki_hashimoto/Kafu_site/Personal244.html

諸氏ももし浅草出遊の折あらば、尾張屋で荷風先生の渋い面を眺めながらそばを食されてはいかがだろうか。ただし二階にあがってはいけませんよ。
そうそう、雷門の近くにあるのは支店で、こちらは荷風先生とゆかりはありません。本店は雷門通りをずっと国際通りへ向かった右手にあります。
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官能作家・館淳一。趣味は路上観察、雑学研究からセーラー服ウォッチング、美女装子探しまで、なんでも探索。
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