ぐらんぴ日記

mixi上で「ぐらんぴ」が書いている日記の引っ越し版です。文字サイズ変更できます。

ガーターベルト補講・鴨居羊子


「汐見オフ」第二部の「ガーターベルトの美学」、会場ではももにゃんさんに朗読していただいたテキストを、文字にしておきますね。


 ある日、記者の私は心斎橋のとある小さな店の奥へ吸い込まれるように入っていった。一つのケースの中に舶来雑貨がぎっしり入っている。昭和二十年代の前半は、日本では舶来ものは何でも宝石のような輝きで私たちを見おろし、私たちはそれを何か罪の意識をもって眺めていた。(略)
 真っ黒なベチコートが頭のすぐ上に一つぶら下がっている。(略)値段はとび上がるほど高く、たしか一万円近かったから、私はため息をついて下から仰ぎ見るだけだった。昭和二十七年、私の月給は一万七千円。これで母子三人が食べてゆけた時代の一万円である。(略)
 ケースの隅にふと小さなピンクのガーター・ベルトを発見した。ピンク色のナイロンシェアには小花のプリントがされており、靴下つりのこましゃくれたゴムも金具もピンク、そしておへそをお祝いでもするように細いレースが一面にちりばめてある。この小さいガーターは一ひらの花べんに似ていた。女の体をむしったら、こんな一ひらがおちてくる。この一ひらは千五百円もした。思い切って買って胸に抱きしめて家へ帰った。
 宝ものをみせるようにソッと母にみせた。
「まあ、そんな美しいものは、よそゆきのためにしまっておきなさいよ。お嫁にゆくまでしまっておくんですよ。それがたしなみというものです」
 私の予期したようにコゴトがはじまった。(略)
 
 鏡の前の裸の私は、ピンクのガーター・ベルトと黒い靴下のみをつけていた。髪の毛は若々しく真黒で、目の玉も黒、ヒフの色はピンク。お尻はふっくらしていたが、大柄の体は、少年のように骨張っていた。
 自分の体をとっくり眺めたのはこのときからにちがいない。(略)
 つまり、この鏡の中にある小さいピンクのガーター・ベルトと透明な黒のストッキングにつつまれた肉体は、寸法としては目にうつらず、全体からぶちつけてくるある感覚、ある悩ましさ、ある溌剌さなどが、それも私の目の玉からではなく、ヒフから触覚的にアタックされるのである。
 女の美は全体的に把握するもので、寸法で把握されるものではないなと私は思った。
 私は母の命にそむいて、その高価なガーター・ベルトをタンスにはしまわず、買った翌日から洋服の下につけた。上はおそまつな黒いっぽいセーター・スタイルなのに、私の中身はピンク色に輝き、おなかは絶えず一人笑いをした。とくにトイレへ行くときが楽しみである、ぱっとスカートをめくると、たちまちピンクの世界が開ける。おしっこまでピンク色に染まっているようであった。
 祝福されたおなか。私はそのとき、どんなブラジェアとパンティスとスリップを着ていたかは覚えていない。すべてを図式的に調和させて常識的に順序正しく衣服を着てゆくつもりは毛頭なかった。ピンクのガーター・ベルト一つで私は十分に下着のよろこびと女の魅力を掘り下げて考えていった。
 このひそやかな喜びを「お嫁にゆくまでタンスにしまいこめ」と言う日本の母親の頭はたしかに狂っている。


日本の女性下着界に革命を起こしたとされる鴨居羊子。「スキャンティ」という語もアイテムも彼女の発明です。その彼女が二十五歳、新聞記者時代に出会ったのがピンクのガーター・ベルト。これがキッカケで彼女は下着デザイナーへの道を歩み始めることになります。まったく縫い物さえも出来なかったと言いますからすごいですね。(*_*;)

文中に出てくる母親というのが、「古い明治の女」の典型のような女性で、なにかと娘を抑圧します。母子家庭のなかで激しい葛藤がえんえんと続くんですね(13年間、母子で同居)この頑迷な母親の存在が彼女を革命児にしたとも言えます。

この文章は、彼女の最初の自伝、

『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』

から抜粋したものです。一番、感動的な部分ですね。まあガーターベルト観賞愛好家としては。(^_^;)
「おしっこまでピンク色」という描写は官能的ですねえ。

私が持っているのは三一書房版ですが、現在はちくま文庫から復刻されています。下着に興味のあるかたはぜひ一読してほしい本です。

http://www.amazon.co.jp/dp/4480422978
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官能作家・館淳一。趣味は路上観察、雑学研究からセーラー服ウォッチング、美女装子探しまで、なんでも探索。
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