呼びにきた父親 2012年03月25日
2013-03-08
達本外喜治『北の国の食物誌』(朝日文庫、1988)を読んでいたら『ラーメン』の項目にこういう記述があった。
料理人である私の父は、家の中に支那そば(*屋台の)を持ちこむことを嫌がった。私はいつもB(*友人)の部屋で食べた。そのころ父は、胃潰瘍で床についていた。私は癌だと思っている。
その晩も私は、Bの下手なマンドリンを聞きながら、支那そばをすすっていた。そのとき戸外で、コンコンと聞き覚えのある咳が聞こえた。ふとのぞくと、それはいつも床についている私の父で、凹凸の雪道を困難そうに提灯をさげて歩いている。まるい火輪がゆれ、父がBの家に入るところまでみた。
Bの母親が二階まで来たので、父はなんの用事できたのかと尋ねた。だれも来ませんよ、と不審そうな返事だったが、すぐそのあと、父の死の知らせがあった。
私は支那そばのドンブリを蹴っころがし、中二階から駆け降りた。
「死者の知らせ」の一様態であるが、受けた当人は非常に意識がハッキリした状態でいる。何せラーメンを味わって食べているわけだから。興味があるのは、父親独特の咳が聞こえた、という部分だ。聴覚によって、窓から覗いて下の道を見る、という行動が誘発されている。雪道は足音がしない。咳でもなければ締切った窓の外に注意が行くことはないだろう。
そこで、この家にやってくる父親の姿を見る。息子が、不審に思ったけれども驚かなかったというのは、病床にある父親が瀕死の状態であるとは考えていなかったからだろう。寒夜、歩けるほどの体力はあると思われるぐらいの状態。つまり死の到来を体感的に予測する以前のことであった。前に書いた永井龍男の幻覚とは違う。入眠時幻覚の可能性はない。そういう点では興味深い「知らせ」の形態だ。
ご自身か身の回りで似たような「死者の知らせ」の体験があるかたは教えてください。
イイネ!(12) 鈴木輝一郎 アシシ。 みーや ナゾマ あやのすけ こもも たっちん かおる姫 きた 日立ってゆうか現代
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コメント
ぐらんぴ2012年03月26日 17:51
誰も体験とか(また聞きでもいいんだけど)書いてくれないから、ちょっと私の体験を。
某S社、と書いてもまあみんな分かるから集英社と書くけれど、二十年も前のことだ。
当時私は週刊プレイボーイと週刊明星という(これは廃刊)編集部でアンカーマンをやっていた。記者やデータマンが取材してきたデータ原稿を記事にまとめる仕事。
週刊プレイボーイのほうにТという編集者がいました。当時30代前半、バリバリの働き盛り、結婚してて子供も生まれたばかり。元気のいい編集者でしたね。
その頃は集英社の神保町本社というのは、まだ古いビルで七階建てぐらいの細いビルでした。今のように威風堂々としたビルではなかった。このビルの特徴は、上から見て四角いビルの北、東、南面が全面ガラス窓だったこと。といってもダイヤガラスというのかな、表面がザラザラして光が乱反射するので、早い話がごく粗いスリガラス。
そして腰高の窓を開けるとそこに幅三十センチぐらいの張り出しがある。よく映画で自殺志願者が窓の外に立って「近づいたら飛び降りるぞ」と言ってるシーンがあるでしょう。あんなふうに立てるだけの幅の張り出しが三面ぐるりと廻らされている。たぶん、窓ガラスを清掃する時に便利なように付けたんだと思う。
当時は四階に会議室兼ライタールームというのがありました。大小幾つかの部屋があって、打ち合せをしたりライターが篭って原稿書いたりしてた。私もまあ、ワープロ使う前はそういう部屋に閉じこめられて「さあ書けやれ書け」と言われてせっせと原稿を書いてたんです。
ある日、というかある夜というか、その週プレのТくんが外でいっぱいやって社に帰ってきた。原稿待ちの場合、編集者は適当に外で食事したり飲んだりするのは、まあふつうのこと。その時、Тくんは気分がよかったのかちょっと飲み過ぎてハイになっていた。いわゆる「ゴキゲン」という状態。
その夜、四階会議室の東南角の中会議室には週刊明星のテレビ版が篭って、テレビページの入稿を行なっていた。テレビ班というのはだいたいが原稿料雇いのフリーの記者が多く、それも若い女性が多かった。男二人に女性が四人ぐらい。
Тくんはこの女性たちの気をひきたかったんでしょうな。というのは当時の週プレ、女っ気があまり無かった。むさ苦しい男ばかりの編集部。どうしても若い女の子がいる週刊明星の編集部は隣の芝生、華やいで見える。無理もない。
初夏だったかな、まだ冷房も入らないのでどこも窓を開け放していた。その会議室も。
Тくん、彼女たちを驚かしてやろうと思ったんですね。別の部屋の窓から張り出しに出て、グルリと巡っている張り出しを伝って女性たちのいる会議室の窓の外まで辿りつき、「わー」とか言いながら飛び込んだわけです。まさか四階の窓から誰かが飛び込んでくるとは思わないから彼女たちは驚き、それがТくんだと分かって大笑いする。
ゴキゲンのТくん、ウケがとれてますますゴキゲンになったのですね。そこでやめておけばよいのに、しばらくしてもう一度、やってみようと思って、トライしたのです。
悲劇はそこで起きました。
(イイネ!を押さないと続きは書かないぞ)←脅迫
小夏マーマレード2012年03月26日 20:32
続きはなんとなく想像がつきますが…。
御祝儀でイイネ!を付けさせていただきます
コメント
ぐらんぴ2012年03月26日 20:39
これ一回、別のところに書いたから、そっちで読んで知ってる人も多いと思う。どうしたものかと考えてるところ。そうなんだよな、想像ついちゃうんだよな……。
あやのすけ2012年03月26日 20:57
正直落ちがないので書こうか悩んだのですが・・・。
我が母上はたまに突然思い立って喪服をカバンに詰め、旅行の準備をはじめます。さて旅行の準備が済むと家の電話がなり、誰々が危篤になったという連絡が入ります。我が家では「そういう死神のような真似はやめなさい」と言われています。・・・ってこういう話でいいんでしょうか?
コメント
ぐらんぴ2012年03月27日 01:59
>あやのすけさん そういう話でいいんですよ。「あれ? 偶然の一致にしては妙に続くな」という感じの場合「なにか」ありそうですよね。
あやのすけ2012年03月27日 14:43
よかった(ほっ)。
怪談話は色々ストックがあるのですが、ピンポイントで虫のしらせ系は持ってないですね。
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