ぐらんぴ日記

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こんな言ひ方をご存知でせふか?(続き) 2012年03月16日

ちょっと間が空きましたが、先に書いたことの続き。
丸谷才一のエッセイ『彼らの尊王』(文春文庫『猫だつて夢を見る』収録)に記述された次の文章。

実は『ユリシーズ』はややこしい仕掛けでありまして、読んでるうちにアイルランドの上流階級の有名な姦通事件が読者の頭にちらつくやうになつてゐます。その姦通は、アイルランド政界の大立者パーネルが、彼の政党の代議士オシーの妻と慇懃を通じて訴えられた事件です。


これを読んで驚き喜んだのはなぜかという話ですが、つまりは、

慇懃を通じて

という文章の存在に気がついたからですね。

「慇懃」は、読めないかたもおられると思う。
「いんぎん」と読む。

意味はたいていの辞書には「真心がこもって礼儀正しいこと、その様子。ねんごろ」などとあるでしょう。
ただし、現在、使われるのは、

慇懃無礼

という四字熟語として用いられるのが一番多いでしょうね。
慇懃、つまり一見、丁寧でねんごろな態度なんだけど、その実、「おまえの言うことなど聞きたくない」という本音が透けて見える態度ですね。田舎者の一行が一流レストランに入ってきた時、支配人が「申し訳ありません。今日は予約が一杯でお席がありません……」と言って追い返す。あれが慇懃無礼の見本。席はあるけれど、おまえたちのような、この店にふさわしくない人間は入れてやらないよ」と無言で伝える失礼な態度が慇懃無礼。

まあ現代では、これ以外に「慇懃」の用例につきあたることはありませんでしょう。

この項、続きます。

……続けます。(笑)

しかし辞書を見ると、もう一つの用例が必ず記載されているはず。

「男女がひそかに情交すること。~を通じる」

この二番目の意味は、必ず「通じる」という語を伴います。
私、この言い方を小学生の頃に知りました。エロ本などあまり無い時代でしたが、ある時、辞書を見て「これはエロ本だ」と気づきました。エッチな言葉がいっぱい収められてる。まあ「性交」とか「愛撫」とか「接吻」とか。(笑)
そういうのを探してゆくと、「慇懃を通じる」というのにぶち当たりまして、いたく感動して、それが今でも記憶に刻みこまれている。
――このことは、先年の恒例、サンスポ講座の時、「『セックスする』という表現をいろいろ言い換えてみよう」という問題を出した時に挙げましたね。覚えている人は覚えているでしょう。まあ誰も覚えてないと思うけど。(;_;)

しかし、実際の文章のなかでこの言い方を用いた例を私は見てないのです。
つまり最近は使わなくなった表現なんですね。
「慇懃」が「ていねいで真心をこめたさま」なわけですから、「慇懃を通じる」は「ていねいで真心をこめた交際をすること」という意味になります(辞書によっては情交より先にそれを挙げているものもあります)。
それが「情交」という露骨な言い方をボカすために「ひそかに情交する」という意味に転用されていったわけですね。
セックスする、性交する、というのは露骨表現で、人間はそういう言い方を避けたがる、ぼかしたがる。だから「一夜を共にする」とか「枕を交わす」などという婉曲表現に走る。
まあ官能小説というのは、そういう婉曲表現の集大成みたいなところがあるのですが、そのなかでも「慇懃を通じる」というのは最大級の婉曲表現ですね。

オンラインの「日本国語大辞典」では用例として二つ挙げています。

*或る女〔1919〕〈有島武郎〉前・四「親佐と葉子との二人に同時に慇懃を通じて」
*恩讐の彼方に〔1919〕〈菊池寛〉「主人の妾に慇懃を通じて」


どちらも1919年すなわち大正八年の刊行。戦前まではよく使われていたのでしょう。しかし「慇懃」が使われなくなると、「慇懃を通じる」も死語化していったんですね。戦後は本当に目にする機会がありませんでした。

それが上記の、丸谷才一氏の文章のなかにひょいと現れたので、やたら嬉しくなったわけです。(笑)
ためしに「慇懃を通じる」で検索されてみると、意味を説明するものは多いけれど、実際の文章に使われている例が少ないことは実感できると思います。

丸谷氏は確か昭和3年の生まれ。その時代あたりの人には「慇懃を通じる」という言い方はごくふつうだったのでせうね。(^_^)
「それはいいことを知った。では何かに使ってみよう」と思ってもダメですよ。
通じません。

(追補:「慇懃」という語が使われなくなった主な理由は、「文字が、書くにも読むにも難しい」からじゃないでしょうかね。違うかな。(笑))

イイネ!(13) 霞  のぶ翁。 あやのすけ  がみやん(゚-゚)  小夏マーマレード  KillerLegs_Aki  森 美貴  狐 かおる姫  よしこ
==============================
コメント

霞 2012年03月16日 23:44
りりー・ラングトリィ、美しいですね~。
さっそく、お気に入りにいれました。
実話だからすごいですね。

続きを楽しみに…。
コメント

よしこ 2012年03月17日 10:22
今回の説明、すごく分かりやすいです。^^
コメント

KillerLegs_Aki 2012年03月17日 11:08
高校時代にこういう先生がいたらもっと真面目にお勉強したのになー(´・ω・`)
コメント

あやのすけ 2012年03月17日 12:34
続きを楽しみにしておりました~。
そういう風にとらえると、男性が卑猥な言葉で女性をものにしようという行為が「慇懃無礼」ということになるのかも。
「なんて慇懃無礼な男性」というセリフが意味深に感じてしまいまそうです(笑)。
コメント

たっちん 2012年03月17日 13:14
丸谷氏のエッセイも菊池寛も読んでいたのに、その表現はまったく印象に残っていませんでした。ただ、慇懃はしたごころを取ると股に勤めると読めないこともないので、字面もそれっぽいと言えばそれっぽいかもしれません。
コメント

ぐらんぴ 2012年03月17日 13:29
>あやのすけさん ふううーむ。死語が誤解された形で後世に甦る、というのはママあるのですが、そういう形であえて誤用して流行らせるというのもありかもしれません。
(^_^;)
>たっちんさん なーーる。……あのね、辞書でこの「慇懃」を見たとたん、字面だけで子供の頃の私は「こ、これは怪しい文字だ。きっとエッチな意味があるんだ」と直感したんですよ。それだったのかなあ。(笑)
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官能作家・館淳一。趣味は路上観察、雑学研究からセーラー服ウォッチング、美女装子探しまで、なんでも探索。
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