ぐらんぴ日記

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オバマのビンラディン殺しは何だったのか 2011年05月08日

オバマは自らの手を血で汚してビンラディンを殺すことで、「残りの半分のアメリカ」と和解したのです。人々は、そこに左右対立からの前進、人種間対立の消滅を見て、その感慨が興奮や賞賛を支えているのだと思うのです。

冷泉彰彦氏のメルマガ『from 911/USAレポート』第513回
「オバマのグラウンドゼロ献花とは何だったのか?」

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コメント

ぐらんぴ2011年05月08日 07:05
どうもメルマガ登録なんて面倒くさいという人のために、全文転載しておきます。ただし引用なしに外部に転載しないでくださいね。
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(1)
 ■ 『from 911/USAレポート』               第513回


「オバマのグラウンドゼロ献花とは何だったのか?」

 5月5日(木)の午後1時過ぎ、オバマ大統領はニューヨークのダウンタウンにある、世界貿易センタービル跡地「グラウンドゼロ」に歩みを進め、911のテロ被災者の遺族や、多くの犠牲を出したNYの警察・消防関係者などを慰問しつつ、大きな花環を捧げ、献花の儀式を行いました。これに先立つ、警察や消防への訪問を含めてセレモニーは静かに当初予定のスケジュールで行われ、大統領はNYを後にしました。

 この後、大統領は、一旦ワシントンDCに引き上げましたが、翌日の金曜日には、ビンラディン殺害作戦を「成功」させたSEAL(シール)と呼ばれる海軍特殊部隊の隊員の一部と面会するためにケンタッキー州へ移動する予定です。

 この花環ですが、一体何のための花環なのでしょうか?

 その意味合いを考える以前に、何とも不思議な花環でした。大きな環に白、赤、青の三色のカーネーションが厚めに飾られた花環は確かに立派でした。ですが、その色合いの意味は良く分かりません。この三色は「合衆国星条旗」の三色にも見えます。
そうであれば、対テロ戦争の「勝利」あるいは「国威発揚」の色ということ、あるいは「挙国一致」を意味しているということになると思います。日本では紅白の幕をめぐらすような「慶事」に際して供されるリボンや花の彩りもアメリカではこれと同じ三色だからです。

 もうひとつの考えは、あくまで追悼の花ということです。3000人を超える人がこの地で亡くなったことを踏まえて、犠牲者の追悼として献花する、その追悼の色が白であり、ただ没後10年になろうという時間を考えると、完全な服喪ではなく何らかの色合いを添えることは不自然ではないので赤と青を追加したという考え方ができます。それ以前に、アメリカでは追悼の献花は「絶対に白」とは決まっていないので、自然だとも言えます。

 けれども、人々の心理の奥底には様々な感慨があるように思います。例えば、保守系のタブロイド紙『ニューヨーク・ポスト』が5日の一面見出しに掲げた "BITTERSWEET. Prez to lay wreath at Ground Zero. Then we can celebrate bin Ladin's death." (「何というほろ苦さ、大統領がグラウンドゼロに献花することで、我々はビンラディンの死を祝うことができるというわけだ」)という何とも複雑なメッセージがいい例です。

 もっとも、この「ほろ苦さ (bittersweet)」という言葉は、前日にホワイトハウスのカーニー報道官が「大統領のグラウンドゼロ献花というのは、ほろ苦い行事になる」という言葉を受けて言っているところもあり、ポスト紙のオリジナルではないのですが、カーニー氏の意図にしても、ポスト紙の表現にしても「何がほろ苦い」のかは明確ではありません。

 ホワイトハウスからは「遺族を前にして、政治的なスピーチを高らかに歌い上げるのは相応しくない」ということ、その大統領と遺族との会話も個人的なものであり、音声をテレビで報道したりするものではない、というような「特別な配慮」をすることが発表されています。カーニー報道官は、そのこと自体を「ほろ苦い」と表現している、表面的にはそうでした。

 ですが、そこにはやはり「復讐のために一人の人間を殺害して、そのことを祝う」ということにたいして、万人が抱く「躊躇」があるように思うのです。オバマはそのことを十分に理解するがゆえに、グラウンドゼロではスピーチをしなかったし、殺害を発表した会見、翌日の夕食会の席での短いスピーチなどでも厳しい表情で「ポーカーフェース」を貫いていたのだと思います。

ぐらんぴ2011年05月08日 07:06
(2) ですが、それでも疑問は残ります。あの花環は何だったのでしょうか? 仇敵を倒したと、まるで忠臣蔵のように911の犠牲者の霊に報告するためだったのでしょうか? そしてもう一つ、あの発表直後から起こった若者を中心とする熱狂は何だったのでしょうか? この熱狂に関しては、今週初頭にこの欄の臨時号で様々な理由を考えてお話ししていますが、改めてその奥にある心理とは何なのでしょう?

 オバマ大統領が「ビンラディン殺害」を発表したのは、5月1日の日曜日の東部時間深夜でした。発表の前後からワシントンDCのホワイトハウス周辺には、多くの若者が集まって星条旗を振ったり気勢を上げるといった行動に出ていました。また、ニューヨークのグラウンドゼロでも、千人程度の人が集まって、中には道路標識によじ登って星条旗を振るなど派手な行動がTVに映っていました。グラウンドゼロの人出は、そのまま朝まで続き、翌日の2日の午前中からお昼にかけても群衆が「USA!USA!」と連呼したりしていたようです。

 また翌日になって、CNNが公開していたのですが、若者の熱狂ということでは大学のキャンパスでの「盛り上がり」もなかなかのものだったようです。発表当日深夜には、ペンシルベニア州立大学のメインキャンパス、マサチューセッツ大学アマースト校、オハイオ州立大学などでも学生が騒いでいたようですし、マンハッタンのグラウンドゼロに繰り出した若者の多くは、近所のNYU(ニューヨーク大学)の学生
だったようですし、ワシントンの場合もそうです。

 彼等はどうして、あそこまで熱狂していたのでしょうか? オバマのファンだから、対立を忘れて挙国一致になれるから・・・それだけではないと思うのです。報道の中には「今の大学生は小学生だった2001年以来ずっと「テロの影」に怯えて生きてきた」という解説もありました。「空港や駅の厳重な警備、何かにつけて身分証明書を提示しないといけない不便、そうした影からの解放感があるのでは」とその記事は
説明していましたが、これも釈然としない解説です。

 そんな中、私の印象に残ったのは、例えばラッシュ・リンボーのコメントです。リンボーというのは、保守派のラジオDJであり、いわゆる草の根保守に絶大な人気を誇る一方で、オバマに取っては宿敵とも言うべき存在でした。その毒舌はかなり極端
で「オバマは社会主義者」であるとか「オバマはアメリカ人ではない」などという全否定を大統領に対して浴びせてきたのです。ちなみに、環境保護政策についても批判的で、今回の東日本大震災に対しても「環境保護に熱心な日本が天罰を食らったのは皮肉だ」というような言い方で切り捨てるなど、相手への配慮などお構いなしの「アジテーター」と言って良いでしょう。

 そのリンボーが今回の作戦についてオバマを褒めたのです。しかも、その褒め方が尋常ではありませんでした。「軍のお歴々が考えることは分かっている。いつでも空爆だ。ミサイルをぶち込んだりして全部破壊してしまうんだ。だが、オバマ大統領はただ一人、特殊部隊を地上に下ろしたんだ。この判断は大統領一人だけが下したんだ。軍のアドバイザーやCIAのアドバイザーに従ったんじゃない。大統領だけが下した
判断だ。軍は全部爆破してしまう。だが大統領一人だけはどうしてもビンラディンのDNAを要求した。彼だけが証拠が必要だと理解していたんだ・・・」

 とにかくリンボーがオバマを褒めるというのは、アメリカでは太陽が西から昇るぐらい大変なことなのですが、加えてその褒め方が尋常でなかったので、これは話題になりました。私には、ほんの少し「血に汚れた部分をオバマに押し付ける」感覚が感じられましたが、それはあくまで深読みが過ぎるというもので、とにかく一方的な賞賛と言っていいと思います。

 恐らく、このリンボーの反応がヒントなのだと思います。オバマは自らの手を血で汚してビンラディンを殺すことで、「残りの半分のアメリカ」と和解したのです。人々は、そこに左右対立からの前進、人種間対立の消滅を見て、その感慨が興奮や賞賛を支えているのだと思うのです。

 例えば、オバマは2007年から2008年にかけて大統領選を戦う中で、ブッシュの政策を激しく攻撃していました。その中で、例えば911やアフガンの関係で拘束した容疑者に対して、グアンタナモ基地に収容したり、軍事裁判の対象とするといったブッシュの姿勢については、自分が大統領になったら廃止する、そう公約しています。

ぐらんぴ2011年05月08日 07:07
(3) ですが、実際は大統領就任後に「グアンタナモ収容所廃止」や「テロ容疑者をニューヨークへ護送して一般の刑事法廷で裁く」といった政策を実行に移すのには失敗しています。ホルダー司法長官は何度も試みたのですが、そのたびに保守派から「容疑者護送は奪還テロを招くだけ」と批判され、例えばサラ・ペイリンなどからは「自分たちが命がけで守っている合衆国憲法で認められた権利(黙秘権や弁護士選任)は絶対にテロリストに認めてはならない」などと言われてきたのです。

 様々な経緯の結果、頼みの綱だったニューヨークのブルームバーク市長までが「断念」というか「反対」に回ってしまったために、一般法廷への護送は失敗し、その結果として自動的に収容所の廃止も断念させられているのです。一連の動きに関して、それこそリンボーやペイリンからは「非国民」呼ばわりされ、その怨念が「オバマは
イスラム教徒」であるとか「オバマはアメリカ生まれでないので大統領になれない」などといったデマ攻撃として、大統領を苦しめたのでした。

 今回、そうした過去との連続性を断ち切るかのように「自分が泥をかぶって」ビンラディンに対して危険な作戦を実施して仕留めたという事実は、保守派に取っては「大統領がやっと俺達の仲間になった」あるいは「オバマはやっと俺達の大統領になった」という感覚があるのだと思います。これまで「オバマ」と呼び捨てにしたり、「バラク・フセイン・オバマ」と嫌味ったらしくミドルネームを強調して大統領を非難していたリンボーが、今回は「プレジデント・オバマ」と何度も繰り返した、これはそういうことだと思います。

 献花についても同じことです。他でもないリベラルでインテリのオバマ、ブッシュの軍事外交に反対して当選したオバマが、他でもないオサマ・ビンラディンを殺害して、その報告という意味合いを込めてマンハッタンを訪れた、これは911を直接経験した警察・消防や遺族に取っては理屈抜きに感慨があるのです。

 オバマは、911の日に特に多くの犠牲を出した「エンジン54」というニューヨ
ーク消防局の分署を訪問し、「あの日」に仲間を失った消防士たちと懇談しながら「ナスのグラタンとピザ」のランチを一緒に楽しんだのだそうです。大統領との懇談後に取材に応じた消防士たちは、異様に興奮しながらそれがいかに大変な経験だったかを語っていました。「ホワイトハウス特製の飯でも食えるかと思ったら、そうじゃなくてこっちが用意したんです。でも大統領は嬉しそうに食べてくれましたよ・・・」
まるでオバマが「聖人」かのような興奮ぶりでした。

 学生たちの熱狂も同じようなものがあると思います。保守派の学生にとっては「カッコいいとは思っていたが所詮は典型的なリベラル政治家と思っていたオバマが、自分たちの仲間になった」という感覚でしょうし、リベラルの学生にとっても「自分たちの推したオバマが国論分裂の元凶ということになると、当初の期待が裏切られた感じ」だったのが「善を保ちつつ悪も背負って国内に和解をもたらした」ということなのだと思います。

 多分、後者の感覚、つまり「善悪二元論」ではなく「善でありながら悪を背負う」二重性なり、度量や覚悟の姿勢がカッコいいということなのでしょう。20歳前後の若い世代の熱狂というのはそういうことだと思います。

 花環の意味合い、そして熱狂といった現象の背景にある「心理」はそんなところだと思います。一つ指摘しておきたいのは、この「挙国一致ムード」が例えば言論を封殺する性格のものではないということです。オバマのグラウンドゼロ献花の前後から、「ビンラディンの遺体を公開するかどうか」の論争、あるいは「ビンラディンが無抵抗だった疑惑」そして「パキスタンの主権侵害の懸念」など色々なことが言われてい
ます。国際法に関する問題点の指摘も始まっています。

ぐらんぴ2011年05月08日 07:09
(4) 例えばビンラディンの所在を突き止めるに至った諜報の一部は「グアンタナモでの尋問」で得られたとか「水責めの拷問」の効果だという声もあり、改めて収容所を存続させることの是非、あるいはブッシュ時代以来の拷問の正当化など、国論を割りそうな論争も始まっています。ですが、そこには以前のような陰湿なイデオロギー激突という趣は消えており、かなり実務的で冷静な議論になってきているように思われます。

 民主党系の重鎮政治評論家である、キャンディ・クロエ女史が言っていたのは、「ビンラディン殺害」というのは「closure(決着)」ではないだろうけれども、「clarity(明確化、スッキリ感)」なのだというのです。一つ何かが明確になり、一歩先へ進めるという意味合いで言っているのだと思います。そのことは、賛否両論が自由に出てきたことと関係があるようにも思えます。

 以上がアメリカの「国内の論理」です。
 ですが、国際的に見れば問題だらけの「殺害劇」だということは間違いありません。

 米国の殺害の根拠は、戦時国際法によって「殺しのライセンス」を得ているという論法ですが、一方的な解釈であることは間違いありません。何よりも、国家でない個人との紛争に戦時国際法が適用できるかは議論の分かれるところです。その正当性を審理できるのは、現在の国際法の枠組からすると、ジュネーブにある「国際刑事裁判所(ICC)」になります。このICCでは、ビンラディンのテロや、米特殊部隊の「殺害行為」のような「国際犯罪」については、現在110カ国以上が加入している「ローマ規程」に基づいて裁くことになっています。

 ところがアメリカはこのローマ規程に署名・批准していないばかりか、ローマ規程
やICCを「敵視」してきました。オバマ政権になって多少軟化しているものの、以前はICCで米国民を起訴しようとした国には「断交と経済制裁を加える」という脅しを加えていたのです。現在も、その極端な姿勢を緩めただけで、アメリカ自身が加入する可能性はほとんどゼロということは変わらないのです。

 アメリカが反対している最大の理由は、米軍の軍規に基づく米兵の行動をICCに断罪されるのは絶対に許さないという「国家意思」です。今回のケースは正にこれに該当します。従って、いかなる形であれ、米国が加入することによって、今回の件についてローマ規程により起訴がされることは現実的にはあり得ません。

 もう一つの国際法の枠組は、オランダのハーグにある国際司法裁判所ですが、これは国連加盟国同士の紛争調停機構であり、今回のケースはパキスタン政府がアメリカ政府を「主権侵害行為」として提訴することになります。ですが、アメリカはパキスタンがそのような行動に訴えれば、援助の打ち切りと敵国扱いをしてくるでしょう。
敵国扱いというのは、核の放棄を軍事行動も辞さない姿勢で迫ってくるという意味です。ですから、パキスタンとしては実質的には不可能だと思います。

 従って、今回の「殺害」に関してはアメリカの行動に国際法上の疑念があるとは言え、ICCもハーグの国際司法裁判所も手出しはできないのです。ただ、国際社会という観点から見れば、ブッシュの一国主義が国際法の秩序を乱してきたように、オバマもその延長で国際法の秩序撹乱を行ったという事実は曲げられないと思います。

 その意味で、オバマは「人類に普遍の原理原則の守護者」であることから降りてしまったわけです。では、このままオバマは「ダークサイド」に行ってしまうのでしょうか? 例えば核廃絶の長期的な理念へ改めて戻って国際的なリーダーシップを発揮するとか、その理念に沿う形での「ヒロシマ献花」を実現するという可能性は消えたのでしょうか?

 私は全く消えたとは思いません。ただ、そうした路線回帰というのは、景気の回復と財政赤字削減について成果を出し、アラブの民主化運動を一定の前進の中で沈静化させるという「直近の政治課題」を乗り切って、2012年に再選されたその先に見えてくるのだと思います。それまでは「ダークな一国主義」にやや寄りながら国内の和解を演出し続ける、そのように見るのがまず常識的ではないかと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )
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