Monsieur とは
2010-04-12
心おぼえとして書きつけておくので、興味のない人はスルーしてください。
フランス語でMonsieur(ムッシュー)といえば、今は男子に呼びかける敬称だ。「~さん」「~さま」という感じでごくふつうに使われる。朝なら「ボンジュール・ムッシュー」午後から夜なら「ボンソワール・ムッシュー」と誰彼なく言う。英語であれば、Mister とほとんど同じ用法。
10年ぐらい前までは2年に3回ぐらいの頻度でパリを訪ねていた。一時は「パリに少しの間住めないかな」と考えたりもした。
その頃、Scarabe d'Orというポルノ専門書店が6区にあり、滞在ちゅうはたびたび足を運んだ。その店に行くためにパリに滞在していたようなものかな。(^_^;)
リュクサンブール公園の西側、オデオンに出る坂道。あまり情緒のない通りだったが、その通りが、
rue Monsieur Le Prince
ムッシュー・ル・プランス通り。
prince は言うまでもなく「王子」だから「王子様通り」あるいは「皇太子さま通り」ってことなんだろうな、となんとなく思ってた。しかし「王子」に「ムッシュー」とつくのが妙な感じであった。そりゃ日本でも「皇太子さま」と言うけれど、それを通りの名にする時「皇太子さま通り」とは言わないよね。「皇太子通り」とするはずだ。
昨日週刊文春の鹿島茂氏の書評を読んでいたら、『パリのグランド・デザイン ルイ14世が創った世界都市』(三宅理一、中公新書)を紹介する部分があって、ぼくもかつて訪ねたことがあるヴォー・ル・ヴィコントの城館や庭園のことも書かれていて目をとおしてしまったのだが、こういう文章につきあたった。
>一般に、フランスでは王位継承権第2位(たいていは王太子の次弟)の人物が「ムッシュー」と呼ばれる。ブルボン王朝においては、ルイ13世の弟、ガストン、及びルイ14世の弟がフィリップがこの「ムッシュー」に当たり、いずれもオルレアン公を名乗ったが……。
そこで「ははあ」と思い当たった。あのMousieur Le Prince 通りのプランスさんは、ただの王子さまではなかったのだね。
Monsieur はオルレアン公のような特定の貴族(王位継承権二位)に与えられる敬称で、単なる「さん」じゃなかったのだ。
日本では天皇に対しては「陛下」をつけ、皇太子に対しては「殿下」とつける。この「殿下」がMonsieur だったわけだ。
いや不明なことだねえ。フランス文化や歴史を学んでる人には自明のことなんだろうが、私やエロ本を探しに行くだけしか興味のない男なんで。(^_^;)
そこで改めて調べてみると、このMonsieur Le Prince と呼ばれるのはある特定の貴族の当主だけと決まっていたらしい。それはコンデ公爵。
どうも通りの名になったMonsieur Le Princeは、<大コンデ>と呼ばれたルイ2世のことらしい。
ここまでおぼろげに分かった。
「だから何なんだ」と言われるとそれまでだが、私のなかとしては微かな疑問の一つが少し解けたことでいくばくかの快感が得られたのである。
ちなみにコンデ公ルイ2世は晩年シャンティイに隠居していたとあるから、ハハンときた。諸氏は『宮廷料理人ヴァルテール』という映画を観たことがあるやも知れぬ。その時にヴァルテールが仕えた公爵が、この大コンデなのであっただよ。痛風で苦しんでた主人ね。
さらに言えば、Monsieur が特定の階層地位にある人に対してのみつけられる敬称であるのと同様、英語の Mister もまたそうなのである。
イギリス映画ではそういう会話が出てくる。ある人物が「ミスター」と呼ばれて悦にいり「君は礼儀正しいね」と言うのだ。
日本人にはサッパリ分からないが「ミスター」と呼ばれるべき階層立場の人間はちゃんと今でもいるということね。
これは英国のみならずアメリカでもそうである。そのことは映画『ミスタア・ロバーツ』を紹介した時に書いたが、この映画の主人公、ヘンリー・フォンダ扮するロバーツ大尉がなぜ「ミスタア・ロバーツ」なのか、誰も疑問に思った人はいないと思う(私は妙だと思ったが)。
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