ぐらんぴ日記

mixi上で「ぐらんぴ」が書いている日記の引っ越し版です。文字サイズ変更できます。

ベランダ猫とイスラエル


ぼくのマンションの部屋は一階にあり、人の通らない裏庭に面している。
その向こうの墓地とを隔てる塀はこの一帯の地域猫(野良猫のポリティカルコレクト語らしい)の通路になっている。パソコンのキーボードに向っていると、猫の陰がキーボードをよぎってゆく。太陽とそういう位置関係にあるのだが、見上げるとノソノソとあちらのボス猫、こちらの女王猫が歩いてゆくのを見るのは心和むものがある。
ベランダに面しているのでエサを貰いにやってくる猫がいて、そういう猫たちに25年もエサをやり続けてきた。
今ベランダ猫として自分の縄張りを主張しているのは「ひがみ」という牝熟女猫である。猛々しい猫でしょっちゅう他の猫たちとハデな争いを展開している。今のところ我が家の食餌権は彼女が独占している。他の猫たちは彼女が食べ残した餌をかすめとりに来て、発見されて追い払われている。おれはおまえだけじゃなくて他の猫にも餌をやりたいんだけどねえ。

朝の四時頃からベランダにやって来て室内を窺って、ぼくがいると分かるとがりがりと網戸をひっかき、気がつかないふりをしているとガラス戸に体当たりして音をたてて注意を喚起する。「私はここにいて待ってるのよ、早くご飯を寄越しなさい!」
泥棒と間違えて他の部屋が騒ぐかもしれないから仕方なくキャットフードの缶詰とドライフードの混合をやるとパクパク食べて礼も言わずに立ち去る。
そうやって餌をやりながら考えるのは、「この猫ってイスラエルみたいなもんだな」ということ。
このベランダには何匹かの猫が穏やかにかわりばんこに立ちよっては餌をもらっていたのに、ある日この猛女猫がやってきて他の猫を追い散らし、食餌権を奪取してしまった。イスラエルがパレスチナから土地を奪取したのと同じ構造である。

そこでふと考えてみた。「ひがみ」から見ればぼくは「神」である。なんだか分からないが餌をくれる「不可知の存在」(と思ってもらいたい)。ぼくが寝坊すると彼女はその日の餌にありつけないのであるが、彼女にしてみればその理由はまったく分からないであろう。さらにぼくが引っ越しでもしたらもう餌にありつけなくて、他の餌場を探しにゆかねばならない。彼女は「神」から見捨てられたわけである。

そこでふと思ったのである。

イスラエルは、神との契約でシオンの土地を与えられたと主張し、パレスチナ人から土地を奪いイスラエルを二度、建国した。
しかし彼らが契約したという神は、いつ契約を撤回するかもしれないではないか。事実最初の建国後、神は契約を破棄した。バビロン捕囚で彼らはシオンの土地から追放されたのである。
だとすれば、今度いつまた神は彼らとの契約を破棄するかもしれぬではないか。

旧約聖書によればイスラエルの民と神(エホヴァ)との間になされている契約は600項目を越える。これらすべての項目でイスラエル人が今でも契約を遵守しているかというと、まったくそんなことはない。しかも神はそこらの不動産業者と違って、法律がどうだのこうだの言わない。彼自身が法律なんだから、契約破棄となれば有無を言わさずだろう。
彼らが「神よ、我々のどこが悪くて契約を破棄されるのですか」と問うとも、神は答えることがないだろう。民は自問自答するしかない。バビロン捕囚の時もそうだった。ベランダ猫が餌をもらえなくなったような事態が、いつイスラエルの民に降りかかるか、これはまったくイスラエル人にも予想の出来ないことなのである。
彼らが「神との契約」をたてにパレスナの地に暮らす以上、この「契約破棄」の恐怖はついて回るはずだ。
イスラエル人は全然、そういうことを考えていないのだろうか。

そう思って調べてみたら、なんと同じことについて言及している学者がいた。

長谷川三千子埼玉大教授(哲学)。『バベルの謎:ヤハウィストの冒険』(中央公論社、1996年)という著書である。

以下はやはり同じことを考えていたらしい東大教授(ドイツ文学)、中澤英雄氏のメールマガジンから文章を抜粋させてもらうことにした。早く言えばパクリであるが諒とされよ。

(以下、中澤氏の論「奇妙な約束」より要旨)

 旧約聖書には、神ヤハウェがイスラエル人に土地を与えるという約束が書かれている。たとえば、創世記15章で神はイスラエル民族の祖アブラハムに、「あなたの子孫にこの土地を与える。エジプトの川から大河ユーフラテスに至るまで、
カイン人、ケナズ人、カドモニ人、ヘト人、ペリジ人、レファイム人、ギルガシ人、エブス人の土地を与える」とある。また、出エジプト記第6章で神はモーセに、「わたしはまた、彼らと契約を立て、彼らが寄留していた寄留地であるカナンの土地を与えると約束した」と述べている。

 だが、このヤハウェの約束は実に奇妙な約束なのである。この奇妙さを暴露しているのが、長谷川三千子女史なのである。

長谷川女史は前掲書のなかでおよそ次のように述べている。
ヤハウェがアブラハムに与えると約束した土地は、すでに別の民族が住んでいた土地であった。つまりヤハウェは、他人の土地を勝手にアブラハムに与えると約束したわけであ
る。これはまことに「顰蹙(ひんしゅく)すべき約束」である。だがこの約束は、ヤハウェが、イスラエル人の神であると同時に、全地の神でもあるという「一風変わった二重性格」によって担保されている。つまり、全地の神であるヤハウェがどの土地をイスラエル人に与えようが勝手というわけである。この神の約束に従って、イスラエル民族は他の民族の土地を侵略し、略奪した。その結果、イスラエルの建国にまつわる根本的な「暴力」が、いわば「正々堂々と公認されることになった」

 このような聖書の記述をひっくり返して眺めてみれば、そこに浮かび上がってくるのは、「神の約束」とは、本来、自分たちのものではない土地を横取りしたことを正当化するために持ち出された理由ではないのか、という疑惑である。

 イスラエル人が定住する前に、カナーンの地に様々な民族が住んでいたことは、先に引用した創世記の一節にも示されている。その土地はまさに太古の時代においても諸民族の係争の地であった。その土地を最終的に奪ったイスラエル人が、それを神に与えられた土地として他の民族に主張するために作り上げたのが、聖書の中の「神の約束」という物語であり、「神の約束」とは、異民族殺戮・土地略奪を伴った建国を正当化するためのフィクションではなかったのか。

《彼らは、男も女も、若者も老人も、また牛、羊、ろばに至るまで町にあるものはことごとく剣にかけて滅ぼし尽くした。》(エリコ攻略)
《その日の敵の死者は男女合わせて一万二千人、アイの全住民であった。》(アイ攻略)
《彼らはしかし、人間をことごとく剣にかけて撃って滅ぼし去り、息のある者は一人も残さなかった。主がその僕モーセに命じられたとおり、モーセはヨシュアに命じ、ヨシュアはその通りにした。》(ハツォル攻略)

 ヨシュア記には、イスラエルが神の命令に従ってカナーンの地の異民族を皆殺しにしたことが、誇らしげに記されている。

 異民族殺戮=民族浄化を正義と認める「神」は恐ろしい神である。それは民族的エゴイズムの神格化にほかならない。

 このように、イスラエル民族は太古の土地略奪を「神の約束」として正当化したのであるが、現代においても宗教的シオニストは、その土地の再奪略を聖書を根拠に正当化している。歴史は繰り返すようである。

 だが、長谷川女史の考察には次のような逆説的洞察が含まれている。

《しかし、他方では、神による「土地の約束」が、これほど明瞭なかたちで建国の出発点に据えられてしまつたことは、或る難しい問題を生みだしたとも言へる。すなはち、イスラエルの民にとつて、その国土がいつまでたつても本当の意味での自分たちの土地とはなりえない、という問題である。カナーンの地は、あくまでも神との契約によつて、イスラエルの民へと授けられたものであるのだから、それは彼らにとつて、いはば永遠の「神からの借地」なのであり、決して自分たちの「持ち家」とはなりえないのである。》

ここからぐらんぴの感想。

そうだよねえ、イスラエル人が「神との契約」を至上のものとするかぎり、「一方的な契約破棄」の恐怖は常にあるわけで、これではイスラエル人は慢性的なノイローゼにならざるをえない。

中澤氏の結論はこうだ。

 神は、イスラエルが神との契約を守るかぎりにおいて、パレスチナの土地をイスラエルに貸し与えている。
 神との契約を根拠にするかぎり、イスラエル人はパレスチナの土地を再度奪われても文句は言えないわけである。イスラエルがその土地を真の「持ち家」とするためには、「神の約束」という宗教的幻想を捨て去り、自国を植民国家と認め、原住民たるパレスチナ人との和解と共存に向かうしか道はないのではなかろうか。

分かったかね、ベランダ猫ひがみよ。おまえは他の猫たちとももう少し仲良くせなあかんのよ。
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官能作家・館淳一。趣味は路上観察、雑学研究からセーラー服ウォッチング、美女装子探しまで、なんでも探索。
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